人を雇うときは多くの手続きが必要です。健康保険・厚生年金保険・雇用保険などの社会保険の加入手続きが真っ先に思い浮かぶと思いますが、実は一番重要なのは労働契約です。
労働契約は「この条件であなたを雇います」「その条件で働きます」といった合意のことです。
この記事では労働契約を結ぶ時に交付する労働条件通知書について解説します。
労働条件通知書とは
労働基準法では、法人・個人事業主に関係なく、人を雇ったら労働条件を明確に記載した書面を作成して交付するルールです。 賃金や労働時間などを書面で交付することで労働者が安心して働けるように配慮しているのです。
また、雇う側にもメリットはあります。後々に「こんな条件ではなかった」など訴えられるリスクを回避することにもつながりますので、必ず書面で交付しましょう。
労働者が希望した場合には、FAXやメールなど(LINE など)等で明示することも可能ですので覚えておきましょう。
ただし、トラブル防止の観点から、FAXやメールで明示した日付・送信した担当者の氏名・事業場や法人名・使用者の氏名を記入するようしてくださいね。
絶対に伝えるべき項目
労働条件を書面で作成するといっても、記載する項目は自由ではありません。①~⑥までは必ず明示しなければならない事項です。
① 労働契約の期間
② 期間の定めのある労働契約を更新する場合の基準
③ 就業の場所・従事すべき業務
④ 始業・終業の時刻、所定労働時間を超える労働(早出・残業等)の有無、休憩時間、休日、休暇、労働者を2組以上に分けて就業させる場合における就業時転換に関する事項
⑤ 賃金の決定、計算・支払の方法、賃金の締切り・支払の時期
⑥ 退職に関する事項(解雇の事由を含む。)
上の6項目はどれも働くうえで重要なものです。そして、トラブルになりやすい項目です。
初めて人を雇う場合は⑤の賃金について決めていないこともあるかもしれませんが、賃金未払いの訴えを起こされないためにも、必ず決めてその通りに支払うようにしましょう。
各項目を文字でみると難しそうですし、書面の作り方がかわらないという場合もあるでしょう。
困ったら労働局が示している「労働条件通知書」の様式を活用しましょう。様式の空欄をうめれば作成でき、記載モレの心配もなく安心ですよ。
こちらの東京労働局の様式集からダウンロードできます。
2024年4月から追加される絶対に伝えるべき項目
2024年4月から絶対に伝えなければいけない労働条件が追加されます。追加されるのは以下の3項目です。
就業場所と業務の変更の範囲
就業場所と業務の変更の範囲はすべての労働者に明示して伝えなければなりません。必要ないのではと思われるかもしれません。
しかし、例えば、いま会社の事務所がひとつで経理として採用しても、今後は事務所が増えバックオフィス機能が拡大する可能性もあります。その際は新たな事務所への転勤、人事や営業事務を担当してもらうこともありえます。
就業場所と業務の変更の範囲は今後の可能性を考えて伝えるようにしましょう。
更新上限の有無と内容
更新上限の有無と内容は、有期雇用契約の場合のみ伝えます。有期雇用とは3カ月更新や1年更新など雇用期間の定めのある契約のことです。
更新上限とは「1回限りで更新をしない」「3回を上限に更新をする」などです。
正社員は「期間の定めのない契約」をしていますので契約更新がありませんから伝える必要はありません。
無期転換申し込み機会と無期転換後の労働条件
無期雇用とは期間の定めのない契約です。雇用期間を定めた契約より無期雇用のほうが安定して働けますから無期転換を望む人も多いでしょう。
今までは、最初から無期雇用で求人募集していない限り、いつになったら無期雇用の申し込みができるのかわからない人もいました。
会社側から申し込み可能時期のアナウンスも義務ではありませんでしたが、無期雇用の申し込み時期と無期雇用になったときの条件を最初の雇用契約で伝えることになったのです。
2024年4月からはご説明した3項目を伝えないと法律違反になってしまいますので注意しましょう。また、求人募集の際にも募集要項に記載しましょう。
会社で決めていれば伝える項目
労働条件で「必ず明示しなければならない事項」についてご説明しましたが、「定めをした場合に明示しなければならない事項」というのもあります。
前項の絶対に伝えなければいけない項目①~⑥のあとにつづく⑦~⑮の項目です。
⑦ 昇給に関する事項
⑧ 退職手当の定めが適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算・支払の方法及び支払い時期
⑨ 臨時に支払われる賃金、賞与等及び最低賃金額に関する事項
⑩ 労働者に負担させる食費、作業用品などに関する事項
⑪ 安全・衛生
⑫ 職業訓練
⑬ 災害補償、業務外の傷病扶助
⑭ 表彰、制裁
⑮ 休職
この9項目は法人であれば就業規則などで定めていることも多いと思いますが、個人事業主が定めていることは少ないでしょう。
「特に定めなし」としても大丈夫なものですから、参考程度に知っておきましょう。
まとめ
人を雇うとさまざまな手続きが発生しますが、ます第一歩は労働契約です。労働契約ときくと1年単位などの契約期間があるものをイメージしますが、正社員の雇い入れも「期間の定めのない労働契約」です。
忘れずに「労働条件通知書」を交付するようにしましょう。
雇う会社側の注意としては無期雇用イコール正社員ではないことを覚えておきましょう。無期契約とは契約期間の定めがない労働契約を結ぶのだけで正社員にすることではないのです。